視界が遮られるホワイトアウト |
視界はどんどん悪くなっていきます。これがホワイトアウトか、というくらい前が見えなくなってきました。ナイトフライトでホワイトアウト、最悪です!次第にフロントガラスの下の方になにか積もってきました。雪でした。少し粘っけのあるというかシャーベット状の雪が段々積もってきたのです。
「これ、ホンマにやばいんちゃうん!?」という友だちに「いやいや大丈夫や!」とさらに強気で言いましたが、心臓はバクバクしてました。経験したこともない視界の悪さ、雪がフロントガラスに積もるって、そんなん体験したことない!
そんなもんワイパーで落とせばええやんと思うかもしれませんが、実は旅客機にはついていますが小型飛行機にはワイパーなんてついていません。フライト中に雨が降ってきても風圧で飛んでいくのでワイパーなんて必要ないんです。じゃこんなときどうすればいいのか!積もっていく粘り気のある雪をどうやって吹き飛ばずのか。
セスナ172のコックピット |
パイロット・イン・コマンド(機長)は僕です。心臓バクバクの中、自分こそが冷静にならんとアカン!と思い、冷静に状況を把握するために、まずはコクピットチェックを行いました。マスタースイッチはオンになっている、エンジンオイル温度はまだ正常で燃料もまだちゃんとあることを確認し、念のためキャブレター(過給器)ヒートをオンにしました。寒くて湿度がある時はこのキャブレター内にアイスができます。これが凍ってしまうとエンジンに空気と燃料の混合気がいかなくなってエンジンは止まってしまいます。それを防ぐためにエンジンで温められた空気をキャブレターに流し込みました。
それをしたからといってもちろん前方の視界は回復しません。でもコックピットチェックを行ったことで少しづつ冷静になってきました。エンジンは大丈夫。燃料もまだある。ピッツメドウ空港の管制区域を離れたけど前方やその周りに飛行機はいませんでした。いまモニターしている周波数にも他の飛行機の存在は確認できませんでしたが、念のため自分が飛んでいる場所や意図をモニターしている周波数で発信しました。反応はなし。視界が悪くてこのまま飛んでいても他の飛行機にぶつかることはないなと思いましたが、逆に少し孤独感が生まれました。
どうすればいい!と思いながらも更に冷静に考えました。上昇途中で視界が悪くなり雪が降ってきた、つまり自分の頭上には大きな雲があると。おそらく寒冷前線でできた雪を発生させている雲があってその中にいま自分は入っていっている。予定高度を下げてその雲を避け、下降することで速度を上げてその風圧で雪を飛ばせないかと考えました。
もう一度キャブレターヒートがオンになっていることを確認して下降していきました。速度を徐々に上げていきました。もう神頼みで「お願い!たのむ!」という感じで下降を続けました。すると視界が徐々に開けてきて前方が見えやすくなってきました!よし!思いが通じたのか視界を徐々に遮ろうとしていた雪もどんどんなくなっていき、すっかり前が見えるようになりました。
友達も僕もホッと一安心。そのまま最低高度を維持しながらバンクーバーのダウンタウンの上空へ向かいました。さっきまでの危機的な状況が嘘のように綺麗なバンクーバーの夜景を観ることができました。友達も息を呑むようにその夜景に魅せられていました。
夜のバンクーバー |
少しダウンタウンの上空をぐるぐると飛んで夜の遊覧飛行を楽しんだ後は南に位置するバンクーバー国際空港へ。旅客機の上を飛ぶと少し優越感に浸れます。その後も問題なくベースの空港へ向かい、特にトラフィックもなくスムーズに着陸できました。友達は着陸と同時に拍手をして「ありがとう!留学の最後に最高の思い出ができたわ!」と言ってくれました。天国と地獄を味わったフライトでしたが、結果オーライです。本当に良かった。
思うと非常に怖いフライトでしたが、あの時に冷静に判断でき行動したことが大事に至らずに済んだと思っています。パイロットなら誰でもそうすると思いますが、パニックになることだって十分あります。以外にも僕はあの時頭のなかで色んなことを考えることができました。人によってはこういう恐怖体験で二度と飛びたくないと思うかもしれませんが、僕の場合は大きな自信となりました。
でも各ポイントに行くおおよその時間からその時間帯に前線は大体どこにあるかなど天気情報や天気図をしっかりと解析しないといけないなと感じました。と言いながらもその後も同じような境遇に遭ったことがありますけども。。それはまた別の[思い出のフライト]でお話したいと思います。お楽しみに!
ありがとうございます。
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