2014年2月11日火曜日

【思い出のフライト 7の続き】 一度失った自信を取り戻す方法 (事業用操縦士免許フライトテスト(実技試験)) 後編

ハミルトン空港
トロント・ピアソン国際空港がクローズになった場合、この空港が代替空港一つとなります。
9.11同時多発テロの時、ニューヨークに降りれない飛行機がこの空港にも着陸しました。
さて昨日の記事、【思い出のフライト 7】 一度失った自信を取り戻す方法 (事業用操縦士免許フ ライトテスト(実技試験)) 前編の続きです。いかにして一度失った自信を取り戻すことができたのか。

フライトテストで一番失敗(フェイル)する確率が高いのが「不時着 (Forced Approach)」です。うまく風を読むことができず追い風方向にアプローチすると減点ですし、ましてそれでうまくランディングできそうもないとなれば更に減点です。
不時着のプランニングの参考図
これにはやはり少し緊張しました。キャブヒートをONにしインストラクターが不意にスロットルを閉じエンジン故障の状況を模擬します。(これは試験官がやる場合が多いと思います。)一番長く飛べる滑空速度に近づけながら、不時着するところを見つけねばなりません。これが結構難しいのです。あれにしようか、いやこれにしようかと迷ってるとあっという間に高度が下がってえらいことになります。僕のフライトテスト時では左手前方にきれいな薄緑の縦長のフィールドが左を見た瞬間に目に入ってきました。これだと思い試験官にあそこに降りることを告げると、「ビューティフル。 いいねぇ、僕もあそこを選ぶよ。」と言ってくれました。

自家用飛行機の免許取得時は8の字を描きながら降りていく方法を習いました。この学校ではサーキットを飛ぶように四角く90度にシンプルに計画し下りていく方法を学び、旋回する場所を選定しその地点での高度によって、不時着地に向かって引き続き旋回するか、さらに延長して少し遠回りしてアプローチしていくかを判断します。その間、エンジン故障の原因を探り、乗客へ緊急手順の説明、無線で不時着することを告げます(無線で告げるふりをします。訓練、試験時には発信しません。)ヒヤヒヤもんでしたが、美しくスムーズにできたと思いました。

スピン(きりもみ)
事業用操縦士のフライトテストでは「スピン」をしなければなりませんが、僕はプライベートの訓練時から常々疑問に思っていたことがあります。それは、ストール(失速)訓練など1度や2度は飛行機をわざと失速させて、これが失速だということをわからせるというのはわかりますが、訓練を重ねてきて、どうしてフライトテストの時でさえ故意に失速させるまでやらせるんだろうという疑問です。

ある人はフライトテストはある種の演技なんだといってました。でもこのチーフインストラクターは「実際にストールホーン(失速警報)を聞いたらどうする?」と聞いてきました。僕は「まず機首を下げます」と答えると、「そうだよ。それが本当のストール対処方法だ。」と微笑みながら言い、ストール警報が聞こえた時点で機首下げ、パワーを上げクルーズに戻るというまさに僕が理想としていたもので終了しました。スピンもフルスピンに入る前に回復操作を行い、「アクロバットじゃないんだから」とまた笑って言う試験官。それには僕も笑顔で返しました。

また事業用操縦士のフライトテストには「180度パワーオフランディング」というものがあります。タッチダウンポイントを決め、そこの真横に来たときにスロットルを全閉、ヘヤピンカーブを曲がるように左に旋回、降下し宣言したポイントに着陸するという難易度の高いランディングをやらなければなりません。これこそがこのフライトテストの最後の項目でした。

ランウェイは06、風はほとんど無風で風向090度、2ノットでした。風も応援してくれてます。サーキットのダウンウィンドレグに入りタッチダウンポイントを決める前、不意に目頭が熱くなりました。いままで自信を失いながらも自分なりに精一杯ベストを尽くしてがんばってきた。この180度パワーオフランディングの後にその結果がでる。これをうまくやって自分は絶対合格する。きっと大丈夫。そう思うとなぜか涙がこぼれそうになりました。

でもそれをグッとこらえて旋回を開始。速度確認。フラップ10。速度69ノットを維持し滑るように流れるように綺麗な弧線を描きながらタッチダウンポイントに向かって降下。フラップ25度にセット、再び速度確認、タッチダウンポイントが近づいてくる。
ねらい点に届く前、タッチダウンポイントに着陸できることが約束された時、フラップ40。フレアをかけ意図したタッチダウンポイントに柔らかに着陸しました。

その後試験官であるチーフインストラクターが操縦と無線を受け持ちタクシーウェイに行き、無線で管制官にエプロン(駐機場)までの許可をもらうと試験官が、



「素晴らしいフライトだったよ。合格。君は今、事業用操縦士(コマーシャルパイロット)になった。」


と言って、僕に右手を差し出しました。僕は震えた手で彼の右手をしっかりと握り締めました。そしてこらえていた涙が溢れ出しました。「ありがとうございます、本当にありがとうございます。」涙を流しながら「やった、やった、やった、ついに、ついに、やった。。。」と頭のなかで繰り返していました。

僕が自信を大きく取り戻した瞬間でした。今でもあの清々しい気持ちは忘れることはできません。

小さく自信を失い続け、そして大きく自信を失くした僕は素晴らしい人たちに出会い、最後は自分の力で失った自信を取り戻しました。「新しい人との出会い、そして最後は自分の力で何かを成し遂げる」というプロセスが今の僕の人生にとって確実に大切な物となっています。

応援してくれた家族、友達、学校の人たちに感謝の気持ちでいっぱいでした。

みんな、ありがとう!
ハミルトン空港の長い滑走路、ランウェイ30へのアプローチ
事業用操縦士免許を取得した飛行訓練学校、Peninsulair。
残念なことに僕がライセンスを取った後すぐに学校は倒産しクローズしてしまいました。。。
パイパーチェロキーのコックピット
フラップ操作は中央下のボタンついたレバーでできます。
車のサイドブレーキのような感じです。
機械式なので電気系統が故障してもフラップ使用可能という優れもの。
翼が胴体の上に付いているセスナ172とは違ってパイパーチェロキーは翼が胴体の下に付いています。
翼が邪魔になって下界が見難いですが、色々な利点もありセスナ機に負けないとても良い飛行機です。

夢が叶い、自信も取り戻した場所。すべてが良い思い出です。

筆記試験、フライトテストに合格しても実はまだ事業用操縦士免許は取得できません。色々と必要条件があるのですが、その一つに300NM(大体大阪から長野までの距離)のロングクロスカントリー(野外飛行)というのがあります。僕はこのハミルトン空港からモントリオールのセントヒューバード空港まで行ってモントリオールで一泊してまた自分の操縦で帰ってきました。

このフライトについてはまた機会あれば後日書きたいと思います。これもまた思い出深いフライトでした。

それではまた次回の思い出のフライトお楽しみに!

次回は、【思い出のフライト8】前編:ユージーンおじさんとのファーストフライト
です。

ありがとうございます!

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